葉脈と潮流

純粋さを磨き、迷わない。

Shrink/Growth Blackjackレビュー 希望をもって縮小すること

Shrink/Growth Blackjackというブラウザゲームが先日公開された。作者は普段から縮小やスケール差についてのさまざまな作品を出しているたっぴさんだ。このゲームがとても素晴らしい作品だったので急遽筆を取り文を書いている。

結論から言うと、このゲームはシンプルながら身体が縮むことのシミュレーションとしてかなり良くできている。身体が縮小していく恐ろしさを描きつつ、それを単なる絶望として描かず、縮小を楽しめるということを描いてもいるのだ。小人やスケール変更のことをよく考えて作られているすごくいい作品。

 

tiny.hatenadiary.jp

 

 

このゲームでbetできるのはプレイヤーであるあなたの身長だ。プレイヤーの身長をパーセント単位で賭けることができる。例えば身長の10%を賭けたブラックジャックに勝てばプレイヤーは10%巨大化するし、負ければ10%縮む。勝ち越して(身長が101%以上で)賭場を出れば大きさに応じた金銭が貰え、負け越せばそのままの身長で帰ることになる。万が一身長の最低単位1%になってしまった場合はあなた自身を賭けなければならず、それに負けてしまうとディーラーの所有物になってしまう。

(ダブル、インシュランス、スプリット等一切無し。ブラックジャックの配当増も無い。シンプルなルールになっている)

負けると体が縮んでしまう

身長を40%取られている状況

 

うだうだと説明したが、シンプルなゲームなのでプレイできる人はしてみるとわかりやすいと思う。スマホにも対応しているらしい。直接的な扇情や下品な表現はないものの、ALL INからのゲームオーバーには性的表現がまあまああるのでそこは注意。あと一応18禁なのでそこも注意。

 

 

このゲームの素晴らしいところの一つとして、希望を抱きつつ負かされることにある。負けイベントが主要なコンテンツの一つとなるゲームにおいて、負けイベントを起こすためには当然負ける必要がある。イベントを見たいからといって自爆行動を繰り返すのは作業になってしまうし、逆に敵をべらぼうに強くして勝てなくするのも希望がなくゲームとして楽しくない。そこでこのゲームは主人公にテコ入れをするのである。

このゲームにはプレイヤーサイドにかなり有利な仕様がある。なんとこのゲーム、カードが配られてから掛け金(掛けサイズ)を設定できるのだ。カード配り→ベット→ヒットorスタンドの選択 となっている。これは一方的にプレイヤーに有利な仕様だ。こちらが不利なカードのときはベットサイズを最低限にすれば良いし、逆にこちらが有利なときは強気に張れば良い。極端な話、自分のブラックジャックを確認してから最大ベットをすることも可能だ。ルール上何の問題もない。

ナチュラル21でのMAX張り(オールインは基本不可)

しかしディーラー達も一筋縄ではいかない。Tipsにはこう書いてある。

  • メイド
    案内役の妹で、このゲームでは数少ない普通のディーラーです。
  • ヒーラー
    ここではディーラーをしている人です。たまにイカサマもしています。
  • 村娘
    歩くイカサマ天国ですね。

なんとイカサマの存在が公言されているのだ。これがなかなか手強い。実際、村娘と戦うとこちらは異様にバーストし、相手は器用に小さめのカード(1〜5とか)を引いてきたりする。「そんな気がする」で済まない頻度で。イカサマの詳細は不明だが、その威力は強大である。

ずいぶん大胆で器用なことをする

しかし、プレイヤーにはディール後のベットという大きな武器がある。イカサマの正体や頻度はわからないし、大したことないかもしれない。相手だってバーストすることもある。それを希望にプレイヤーは勝負を続ける。身長は100%を切り、50%を切る。こんな危険な身長では帰れないのでやめられない。何よりその手にはディール後ベットがあるのだから。それがイカサマには敵わない武器だと何となく察しがついていても。

こうしてプレイヤーは敵わない相手にじりじりと負けていく。そこにはわざと負ける熱の薄さも強制負けイベントのような白けもない。プレイヤーに武器を与えることでこのゲームは負けイベントのストレスを減らしているのだ。しかも期待値としてはおそらくディーラー側に分がある。このゲームデザインは何気に絶妙だなと感じた。負けるのに割と楽しい!

 

そうして少しずつ身長を失っていくこともあるだろう。身長70%がだいたい小学生、50%で1~2歳児、20~30%で犬猫サイズ、それより小さくなればお人形…… 身長を失って帰るのは恐ろしいことだ。失った身長を取り戻すために強大なイカサマに立ち向かい、(だいたいの場合は)敗北し、より矮小な存在へと落ちていく。自然と縮小に足が運ぶようにして縮小の恐ろしさを与える巧妙なデザインだと思う。これで君も小人の仲間入りだ。ようこそ。

ちょうど50%の大きさ

 

しかし、単純に縮小を恐ろしいものとして描いているわけではない。むしろこのゲームには自発的な縮小を楽しむ作者の心が反映されているように思い、その雰囲気がとても個人的には心地よかった。

このゲームでは身長の変更は必ずプレイヤーのベットという自発的な行為によって行われる。スケールを変更できる能力をディーラーは持っているが、それを強制的に行使することは決してない。それを行える勝負すら、プレイヤーに完全な選択権があるのだ。これにより、負け越している時にさらに勝負を続ける選択を行う苦しさが生まれるという良さが生まれるのも先述の通り存在する。しかしそれ以上に、プレイヤーが自発的に全ての行動を行うことが身長を変更することにおいての主体性という大事なポイントを生んでいるように思う。

身長を変更することに主体性がなぜ重要なのか。端的に言えば、主体性を持つことで初めて縮小を楽しみうるからである。縮小を楽しむ要素はゲームオーバーイベントの中にも現れている。たとえば、オールインに負けてディーラーの所有物になってしまうと様々なプレイに付き合わされるのだが、その中にはディーラー達はスケール変更を用いてプレイを楽しむ描写がある。必ずしもその力を暴力的に振り回すのではなく、自分が縮んでそれによる変化を楽しむ要素なども含まれている。ディーラー達にとってスケール変更は自分を変える変身であり、それを用いて主体的に楽しんでいるのだ。

エンディングの一つ

このゲームでは身体のスケール変更はプレイヤーを窮地に追い込む要素でもあるが、同時にそれが必ずプレイヤーの手によって行われることで(スケール変更の能力を持つものに強制的に行使されることが無いことで)自発的に変身を楽しむことも可能にしている。そういった縮小行為への前向きさが表れていることはこのゲームの魅力の一つだと、個人的には感じた。

 

他にも、良いポイントは細かくたくさんある。

自分の縮小度合いをわかりやすく教えてくれるドレッサー、縮小するたびに上りづらくなり最後には一段すら登れなくなる階段、一定条件を満たすと利用できるアイテム屋に自分の首を絞める装備が売っていること、やんわりとしかし確実にサディストなキャラクター。縮小による楽しみを増幅してくれる要素ばかりだ。

何でそんなひどいことする??

これ以上縮めないで。本当に。

 

まとめると、自身の身体が縮小されることによる焦燥感や絶望感を巧妙に演出し、なおかつ縮小を決して暴力で終わらせない希望や前向きさも感じられる、絶妙な塩梅のもとに作られている良いゲームだと感じた。伝わるかわからないけれど、これが縮小の良さなんです。伝わってくれ!!!

しかし、こんな作品を作れるのは普通に嫉妬しちゃうわね。僕が視覚的な要素で訴えようとしている一方で、こんなテキストと粗いドット絵だけで上手く演出されちゃうとハンカチ噛んじゃう。すごいなあ、すごいよ。僕も負けないで巨人や小人を描くのをやっていきたいなと思いました。まる。良いゲームなので18禁に抵抗の無い18歳以上の人はぜひ遊んでみてくれ。スマホでもできるっぽいので。では、また。